憧れの尾瀬 山スキー(至仏山、景鶴山) 報告:柴門
尾瀬山スキーの計画が上がった。行きたいなあ・・・・・雪の尾瀬。
参加メンバーを見ると、思ったとおりのパワフルメンバーだ。
経験の少ない私が大丈夫か・・・・。何日も逡巡する。
ふと見た雑誌の星座占い。「案ずるより産むが易し。」だって。占いに押されて決心できた。
-------------------------------------
日程: 5月1日(前夜発)、2日、3日。
場所: 尾瀬ヶ原キャンプ場から、至仏山、景鶴山、悪沢。
メンバー: パルプ・HiO・伊能・ごましお・りかあ・しん・柴門
-------------------------------------
家を出るとき「無理して怪我をするなよ。疲れると注意力がなくなるから。皆さんの楽しい休暇が台無しになるよ。」と言われる。いつも同じことを言われるが、今回は特に肝に銘じる。
「はるかな尾瀬」まで行って何かあっては、話にもならない。かなりの緊張と共に、ピックアップ地点へ向かう。
高速に乗って、順調に走ると、途中、中央道が事故のため通行止めとなっている。仕方なく手前のPAで仮眠することになった。軽く宴会をして、就寝。
翌朝、鳩待峠へ向かう。お天気は最高。
【一日目:至仏山】
10時頃、みんなテント3泊分の荷物を背負って出発。すごい荷物だ。
私は、自分の物しか持っていないのに、こんな姿でスキーをしたことがない。荷重が重くなると、制動力も大きくなるから、はたして止まりたいところで止まれるのか、不安でいっぱいだ。
![]() |
![]() |
出発準備 | 滑りより歩き |
山ノ鼻キャンプ場へ向けて下る。案の定、荷物に振り回される。下りだから楽だと聞いていたのに、これが結構大変で、少しのふらつきでバランスを崩しそうになるから、ものすごく時間がかかってしまった。前につんのめったり、後ろに転んだりして、思うようにいかないのがはがゆい。
しんさん、伊能さんがそれとなく側にいてくださるが、長時間で、荷物がさぞ重かったことだろうと思う。スキーをはずしたり、履いたりしながらやっと到着したころには、お昼前になっていて、早く到着した皆さんが、テントも張って、すっかり準備をしていただいていた。
昼食を済ませて、さっそく至仏山へ登ることになった。12時20分出発。
![]() |
![]() |
気温がどんどん上がっているから、雪も溶けて、表面がズルズルしている。
森の中を抜けて行くと、だんだん高度が上がってくる。ズルッと滑ると、心臓が止まりそうになる。
この冬、突風に吹き飛ばされて、凍った斜面を滑り落ちたのが、トラウマになっている。
高所恐怖症と、滑落恐怖症だ。なかなか、克服できない。眼下に斜面がダーッと広がっているのを見ると、落ちていく自分が見えてしまって、頭がくらくらする。バランスを失いそうになる。足がすくむ。
![]() |
![]() |
みんな、さすがに早い。距離はどんどん離れて、見えなくなりそうだ。焦る・・・。
伊能さんが近くにいてくださるのが、せめてもの救いだ。
そのうち斜面がさらにきつくなって、滑る度に、心臓が止まりそうになって、呼吸を整えないと、怖くて足が動かなくなる。「落ちそう、落ちそう」と連発。
「こんな雪では絶対に落ちないから。」と言われるが、落ちそうな気がするだけなのだから、始末が悪い。落ちそうを100回ぐらい言ったかもしれないが、伊能さんがその度に「落ちないの!」と答えていた。申し訳ありませんでした。
「慣れだから・・・」と何度も言われたが、わかってはいるのだ。「慣れなきゃ仕方ないのだから、黙って歩け」と言われていることを。
さらに、高度が上がると、歩幅が5センチぐらいになってしまった。下を見ないようにしようと思うが、どうしても見てしまう。ふらっと、後ろへ行きそうになる・・・。足が出ない・・・・。
とうとう、紐を出してきて、繋いでもらう事になった。散歩嫌いの犬みたいだ。
ところが、この紐のお陰で、絶対に下まで落ちないと言う安心感ができて、緊張が解けた。
すると、不思議なことに歩けるのだった・・・・。
どうにかこうにか、山頂下の岩場までたどりつく。
板を背負って降りてくる人が見えたので、私は、ここで板と、ついでにザックもデポすることにした。山頂からずれてるらしいので、岩とハイマツ帯を歩いて移動する。これも、スキー靴で歩くのは、難儀した。
まもなく山頂かと思ったら、まだ向こうに壁のような雪の斜面が見えた。途端に、斜面にへばり付いたまま動けなくなっている自分が見える。わーっ、もう、無理!心臓が止まりそうだ。
伊能さんだけ行ってもらうことにした。私は行ける所までと思いながら、少しずつ歩いていたが、上から声がした。「山頂はすぐそこだよ。」
山頂は雪がなくてほっとした。でも勇気を出してよかった。これ以上望めないほどのお天気で360度の素晴らしい景色だ。
![]() |
雪をかぶった山って、なんて美しいのか・・・・・・。しばし見とれるが、帰りのことが心配になる。さっきの急斜面を降りなければならない。またまた、伊能さんがアイゼンを出してきて、つけてもらう。感謝、感謝。もう足を向けて寝られません。
![]() |
![]() |
燧岳 | 平ガ岳 |
ハイマツと、岩の間を苦労して降りる。ようやくデポしたところへたどり着くと、もう私のスキーが準備完了してあった。本当に有難うございました。
ごましおさんがザックを持ってあげると言って下さる。「自分の荷物ぐらい持てなくてどうする!」と思うが、すぐに考えを変えた。アクシデントの種は、私だけなのだ。
時間は既に4時を過ぎて、斜面は日陰になってきているし、気温が急激に下がって、凍ってくるかもしれない。ぐずぐずしてはいられない。見栄を張るのはやめて、素直にお願いすることにした。
4時20分滑降開始。大斜面を、みんな思い思いに気持ちよさそうに滑っていく。凄い!
私も、後から、こわごわ付いて行く。
![]() |
登りの時の、恐怖感が少しずつなくなってきて、ほっとする。なんとも、気疲れした・・・・。
山スキーを始めたばかりの時のほうが、怖いもの知らずというか、かえって平気だったかも。
4時55分頃、BCに到着。あっという間だった。
振り返ると、至仏山が美しい。さっきまであそこにいた?不思議だ。
冷たいビールがおいしかった。
![]() |
外で夕食となった。私は雪の中で夕食なんて初めてだ。風もなく穏やかに、日が暮れていく。熱々の鍋料理が骨にしみた。
【二日目:景鶴山】
GPS軌跡はこちら
朝の支度をしていると、パルプさんが「オコジョがいるよ」と呼んでくださる。
可愛いらしい小さな白い姿が見えた。想像していたより、うんと小さい。
みんなに見つめられて慌てたらしく、そのあたりをあちらでもない、こちらでもないと、木に登ったり降りたりして走り回って、消えた。
6時45分、景鶴山を目指して、尾瀬ヶ原を横切る。霧でほとんど見えない。
![]() |
昨日とはまったく違う幻想的な尾瀬ヶ原だ。たくさんの人が霧の中を歩いているらしい。
カメラマンが三脚を立てている。雪解けの水の中から、水芭蕉が覘いている。
尾瀬ヶ原の真ん中をどこでも歩けるのは、この時期だけかもしれない。
2時間歩いてようやくヨッピ橋に着いた。橋の踏み板がまだなくて、鉄骨だけだ。
両側の手すりを持ちながら、慎重に足を運ぶ。雪解け水の流れが速くて、目が廻りそうだ。
![]() |
そこを過ぎると、見事な樹林の中を歩いていく。
取り付きの手前で休憩。パルプさんがランチを忘れたことが発覚。
9時半、いよいよ、尾根を登ることになったが、結構急坂で、スキーで登るのは大変だ。
パルプさんがアイゼンに切り替えられるので、私もアイゼンにする。
高度が上がっていく。下を見ると思っていた以上の急斜面だ。パルプさんの足跡を必死でたどる。
またまた恐怖症が出てきた。
ちらりと下のほうを見て、ゾーッとする。
神経を集中して確実に登ることだけを考える。
動悸と呼吸が速くなり、手のひらに汗びっしょり。もう、限界・・・・。
最後は藪になって、板をくぐらせるために、這うように登る。スキー担いで藪は初めてだ。
![]() |
やっと皆さんが休憩しているところへたどりついた。ほっとして、座り込む。
休憩後もしばらく、急斜面が続く。亀でも足を動かしていれば、登れるものだ。
やっと、オオシラビソの茂る穏やかな尾根にでた。
急な斜面はなさそうなので、アイゼンから、スキーに履き替えて尾根を行く。
12時40分、山頂直下。絶壁だ。どうやら、裏側から登るらしい。
行けば、すぐのようにも見えるが、亀の私には休憩時間がなくなる。
帰りの急斜面が心配だからここでたっぷり休憩することにした。
今日もまたとない良いお天気になった。靴を脱いで、おやつを食べる・・・・。
尾瀬ヶ原全貌。雪解けの水が大きく蛇行している
![]() |
![]() |
平ガ岳 | ケイズル沢から尾瀬ヶ原 |
静かなゆったりとした時間。なんと贅沢なことか。
さっきまでの恐怖感が嘘のように癒される。諦めないでよかった・・・・・。
うれしさを噛み締める。
通りがかりの人に道を聞かれる。地元の人らしく、遠くから来てくれて有難うと言われた。
正面に日光の白根山、後ろを向けば、真っ白に雪がついてひときわ美しいのが平ヶ岳だと教えてもらう。
彼らは明日は平ヶ岳に登るのだそうで、一緒に行かないかと言う。「め、めっそうもありません。」「いい山だよお・・・・」確かにそうだと思う。
スキーで降りるのなら、くれぐれも雪崩に気をつけてねと、いうことだった。
![]() |
皆さんが、山頂から降りてきて、いよいよ滑降の準備をする。また、ごましおさんがアイゼン等、持ってくださる。急斜面が不安だから、また素直にお願いする。
最悪、歩きで降りることになるかも知れないと思う・・・・。
樹林帯の中の、だらだら斜面はあっという間に終わってしまった。
いよいよ、急斜面の林。
どこから降りればいいのか、おろおろする。
来たいと言ったのは自分だから、降りないわけにはいかない。
やっとパルプさんの跡を見つけて降りる。が、そこから先が問題なのだ。
りかあさんが側で教えてくださる。イメージはバッチリ出来上がるけど、実際目の前には、木が密に生えている。行けそうにない。
りかあさんに、「行って!」と言われる。下からも、「思い切れ!」と伊能さんが叫ぶ。
自分でも「行くぞ」と思うが、足が勝手に斜面にしがみついていて、離れない。
あれれ・・・・・さんざん足と戦って、無我夢中で清水の舞台から飛び降りた。
![]() |
後で聞くと、あの斜面は40度は絶対あったそうな。
私の悲鳴が、至仏山の山頂まで聞こえたに違いないと言われた。騒音公害だなあ。
まるで見世物小屋のお化け屋敷状態だったらしい。(本人、ほとんど記憶にありません。お騒がせしました。)
ともかく怪我もなく降りられたので、第一目標は達成だ。
後は、また尾瀬ヶ原を歩いて、歩いて、歩いて・・・・・・。
途中シャーベット状雪の底なし沼に落ちそうになったりしながら、やっと山ノ鼻キャンプ場にたどり着いた。
降りてきた尾根を、時々振り返りながら歩いた。あの上にいたのかと思うと、感慨深い。
あれだけ怖かったのに、充実感のほうが大きい。
BCに着いたときには、お腹がすきすぎて、ズボンが落ちそうだった。
また、外で夕食となった。昨日よりも寒くて、後はテントの中で宴会となる。
お天気は下り坂とか。明朝、撤収することになったので、残ったお酒を今夜飲んでしまわなければならない・・・というおかしな理由で、延々酒宴が続く。
トイレに歩いて行くと、あちこちのテントから、トラが寝ているような大イビキが聞こえて笑ってしまった。
りかあさんの凝ったお料理も出てきて、みんなで、頂く。
なーるほど。料理の要領もわかったので、次回から私もお役に立てそうです。
ようやく寝ようということになって、仕度をしながら、振り向くと、みんなもう袋に入ってさっさと寝ている。
「す、すばやい!」 私一人、もたもたと、眠りについた。
【三日目:悪沢岳】・・ですが
朝、撤収して、鳩待峠まで戻ってから、悪沢へ滑りに行くことになった。
3日目ともなると、疲れてきて、力が出ない。
ストックを握る手も力が入らないし、後ろへよろけそうになっても、腹筋も背筋も、膝も効かないというか・・・・そのまま、ドスンといってしましいそうになる。
行くかどうするか迷う。行けば途中でやめるわけにはいかないし、何があるかもわからない。
鳩待峠まで戻る間考えていたが、やはり欲張るのは止めようという結論を出した。
こんな状態で行っても、かえって迷惑かけてしまいそうだ。
車まで戻って、皆さんを見送る。行ってらっしゃーい。
どのくらい、経ったのか、うたた寝中にごましおさんから、全員戻ったとTEL。
悪沢は、やはり期待どおりのところだったらしい。
後はお決まりの温泉&食事。その後、大阪へ向かって、ひたすら走る。
皆様、運転有難うございました。
ずっと、怖かった、怖かったと書いてしまったけれど、思い切って参加させていただいて、本当に良かったです。充実感でいっぱいです。一生の思い出になりました。